お笑いトリオ「ハナコ」特集:キングオブコント王者の魅力と軌跡
イントロダクション
「ハナコ」は、ワタナベエンターテインメント所属の若手お笑いトリオです。2014年に結成され、2018年の「キングオブコント」で優勝したことで一躍全国的な注目を集めました。シュールかつ親しみやすいコントを武器に、老若男女幅広い層から支持を得ている実力派です。ツッコミ役・ボケ役と独特の“何もしない”役という三者三様のバランスで繰り広げる笑いは唯一無二で、新世代お笑い第7世代をけん引する存在とも評されています。本特集では、そんなハナコの結成秘話からネタの特徴、輝かしい受賞歴、そして現在の活躍と今後の展望まで、その魅力に迫ります。
結成の経緯
ハナコのメンバーは、菊田竜大(きくた たつひろ)、秋山寛貴(あきやま ひろき)、岡部大(おかべ だい)の3人です。菊田は1987年生まれで千葉県出身、秋山は1991年生まれ岡山県出身、岡部は1989年生まれ秋田県出身という出自もバラバラな三人ですが、全員がワタナベコメディスクール12期生としてお笑いの道を志しました。秋山と菊田は養成所時代にコンビ「ウエストミンスター」を組み、岡部は別コンビ「エガラモガラ」で活動していました。もともと岡部は漫才師でしたが、「もっとコントがやりたい」という思いから秋山・菊田コンビへの合流を志願します。当初、菊田はトリオ化に難色を示したものの、秋山が「同期の中でも抜群に面白い存在」と評価して即座に岡部の加入を決断。こうして2014年に3人はトリオ「ハナコ」を結成しました。
トリオ名の「ハナコ」は響きが良く覚えやすいこと、そしてお年寄りにも親しみやすい名前にしたいとの理由で名付けられました。身近にいる名前を冠することで、どこか素朴で親しみやすいイメージを狙ったと言います。また、事務所の先輩であるロッチのコカドケンタロウからは、岡部が加わったことで「完全体になった」と背中を押されるなど、周囲のお笑い芸人からもトリオ誕生は期待を持って迎えられました。結成当初は無名でしたが、地道にライブ活動を重ね実力を磨いていった彼らは、のちに数々の賞レースで頭角を現すことになります。
ネタの特徴
ハナコの持ち味は何と言っても「コント」です。漫才ではなく主にシチュエーションコメディ形式のコントを得意としており、日常の中のちょっとした違和感や不条理を切り取った笑いを繰り広げます。ネタ作りは主に秋山と岡部の二人を軸に展開し、菊田は要所要所で登場するスタイル。無理に3人全員が前に出ようとせず、あえて菊田の出番を少なく抑える構成が特徴で、その独特の間合いがかえって笑いを増幅させています。実際、「岡部:秋山:菊田=5:5:0」と揶揄されるほど菊田の露出が少ないコントもありますが、それがトリオとしての新鮮なバランスを生み出し、多くの観客に受け入れられる要因となっています。
三人のキャラクターも明確で、「秋山の困り顔、岡部の怒り顔、菊田の無表情」という三者三様の表情芸が持ち味の一つです。秋山は主にツッコミ役で時に振り回される役回り、岡部は坊主頭の小太りという風貌も活かしたパワフルな大ボケ役、そして菊田は立っているだけ・存在しているだけで笑いを生む希有なポジションです。実際に菊田の肩書きは「何もしない担当」と紹介されるほどで、彼が舞台上でただ突っ立っている様子に観客がじわじわ笑わされるという独自の空気感があります。この“何もしない”キャラクターが浸透した結果、他の芸人のコントに菊田をドッキリ乱入させ、周囲がどう対処するかを見る「THE菊田処理王」なる企画が放送されたこともあるほどです。トリオの弱点を逆手に取った個性派コント師として、ハナコは唯一無二の地位を築いています。
また、ハナコはコントの題材の幅広さも魅力です。定番の漫才とは違い、コントならではの発想力で勝負する彼らは、ミュージシャンの宣材写真のパロディなど独創的なネタも得意としています。さらに、日本テレビのバラエティ番組『有吉の壁』では、村上春樹(小説家)や阿久悠(作詞家)、さらには『ウォーリーをさがせ!』のウォーリーになりきるものまねコントに挑戦するなど、コント以外にモノマネ芸にも取り組んで笑いの幅を見せました。こうした柔軟な発想とチャレンジ精神もハナコのネタの特徴であり、観る者を飽きさせない独自の魅力となっています。
主な受賞歴・経歴
結成から数年、ハナコは様々なお笑い賞レースで頭角を現しました。2016年の「キングオブコント」では準決勝まで進出し、2017年の「ABCお笑いグランプリ」でも決勝進出を果たすなど早くから実力を示します。そして2018年、飛躍の年を迎えます。まず2月に事務所主催の「ワタナベお笑いNo.1決定戦2018」で優勝し、続く7月には「お笑いハーベスト大賞2018」でも優勝を掴みました。そして極めつけは9月、結成5年目にして「キングオブコント2018」で堂々の優勝を果たしたのです。
長年キングオブコントを追い続けてきたファンからも「今年の優勝はハナコ!」と熱い支持を受けての栄冠であり、当日の披露ネタ「犬の散歩」や「捕まえて」などが大きな笑いとインパクトを残しました。これら一連の快進撃によりハナコは一気に全国区の知名度を獲得し、“キングオブコント王者”としてお笑い界にその名を刻みました。
キングオブコント制覇後もハナコの勢いは続きます。年末にはテレビ番組『時事ネタ王2018』で優勝を収め、翌2019年2月には再び「ワタナベお笑いNo.1決定戦2019」で2連覇を達成しました。さらに、2019年には「ビートたけしのエンターテインメント賞」にて新人賞に相当する演芸新人賞に選出されるなど、業界からの評価も高まりを見せます(※授賞式欠席のため正式受賞扱いにはなりませんでした)。こうした受賞歴からもわかる通り、ハナコは結成以来着実に実績を積み重ね、押しも押されもせぬコント師へと成長しました。
影響力と評価
ハナコが2018年にキングオブコント優勝という大きな成果を上げたことは、お笑い界全体にも大きな影響を与えました。同年末のM-1グランプリで優勝した霜降り明星と共に、ハナコの躍進は「お笑い第7世代」と呼ばれる若手芸人ブームの牽引役と目されています。それまで賞レースは芸歴の長いベテランが有利とも言われ、若手は先輩のブレイクを待つ風潮がありました。しかしハナコ(と霜降り明星)という同世代の芸人が早くも大舞台で結果を出したことで、「自分たちにもチャンスがある」と多くの若手芸人が刺激を受けたといいます。実際、ハナコ以降は彼らに続けとばかりにEXITや宮下草薙、四千頭身といった同世代の芸人たちが次々と台頭し、テレビでも第7世代芸人が席巻する現象が起きました。ハナコの成功は単なる一トリオの快挙に留まらず、新世代のムーブメントを加速させた点でお笑い史に残る出来事だったのです。
業界内でのハナコの評価も上々です。先述したロッチ・コカドケンタロウの「完全体になった」という言葉の通り、トリオとしての完成度の高さはデビュー当初から注目されていました。キングオブコント優勝後は各方面から称賛の声が上がり、コントの名手・東京03の飯塚悟志も「ハナコのコントは発想が面白いし作り込みが丁寧」と評価するなど、コント師の先輩たちからも一目置かれる存在となりました。さらにクリエイター方面からも注目されており、広告業界の企画に秋山が招かれてアイデア発想法について語るなど、お笑いの枠を超えた評価も得ています。
こうしたプロからの評価に加え、ハナコはファンからの支持も非常に厚いグループです。菊田によれば、ハナコのファン層は若い女性ばかりではなく親子連れなどファミリー層が多いとのことで、「俺らはワーキャー(黄色い声援)人気が本当にない」と本人たちも語っています。イケメン芸人にありがちなアイドル的人気ではなく、老若男女が純粋にネタを楽しむ笑いの実力で勝負している点はハナコの誇りであり強みと言えるでしょう。実際、ネタの内容も子供からお年寄りまでクスッと笑えるような普遍性があり、「家族みんなでハナコのコントを観に来る」という微笑ましい光景も珍しくありません。お笑いファンのみならず幅広い層に愛されているハナコは、その安定した笑いのクオリティと独創性で高い評価を勝ち取っています。
現在の活動と今後の展望
キングオブコント優勝以降、ハナコはテレビや舞台で八面六臂の活躍を続けています。バラエティ番組では、日本テレビの人気番組『有吉の壁』に2019年からレギュラー出演し、毎回個性的なキャラコントで笑いを届けています。フジテレビのコント番組『新しいカギ』にも2021年の番組開始当初から主要キャストとして出演し、地上波で持ち前のコント力を発揮しています。また、2023年からはフジテレビ『なりゆき街道旅』の2代目MCに就任し、旅番組での仕切り役という新たな一面も見せ始めました。ラジオでは秋山が文化放送の深夜番組『レコメン!』木曜パーソナリティに抜擢され、テレビとは違うフリートークでリスナーを楽しませています。さらにNHK Eテレの子供向け番組『みんなDEどーもくん!』にもレギュラー出演するなど、子供から大人まで幅広い層に笑いを届ける場を広げています。地元の劇場ライブも精力的に行っており、毎年開催している単独ライブ「タロウ」シリーズでは新作コントを多数披露し好評を博しています(ライブDVD『タロウ4』(2019年)『タロウ5』(2022年)をリリース)。テレビ・ラジオ・舞台とあらゆるフィールドで、ハナコは今や欠かせない存在となりました。
近年注目すべきは、岡部大の俳優としての活躍です。岡部は2020年、NHK連続テレビ小説『エール』で田ノ上五郎役に抜擢され、本格的にドラマデビューを果たしました。コミカルなキャラクターを巧みに演じて視聴者に強い印象を残し、「芸人・ハナコ岡部」の演技力が各方面から高く評価されました。その後も岡部は民放ドラマ『私の家政夫ナギサさん』(TBS)や、テレビ東京の深夜ドラマ『しろめし修行僧』では主演に大抜擢されるなど、役者として着実にキャリアを積んでいます。2023年にはNHK大河ドラマ『どうする家康』にも出演し、お笑い芸人の枠を超え活躍の場を広げました。他のメンバーもそれぞれ個人での活動を広げており、菊田は2022年のTBSドラマ『君の花になる』にてテレビドラマ出演を経験。秋山も演技やイラストの才能を活かした仕事で評価を受けています(自身の趣味であるデザインを活かしスニーカーショップとのコラボイベントを開催するなど、多才ぶりを発揮)。このように個々の活動が充実する一方で、3人が集まった時のコントパワーは全く色褪せていません。テレビのコント特番『キングオブコントの会』にレギュラー出演して新作コントを披露したり、YouTube公式チャンネルでコント動画を発信したりと、トリオとしての芸にも余念がありません。
今後の展望として、ハナコはさらなる飛躍の可能性を秘めています。コント師として培った表現力とチームワークは、お笑いのみならず演劇や映画など他分野での活躍にも繋がるでしょう。すでに岡部が俳優として結果を出していることから、将来的には3人で舞台劇や映像作品を手掛ける可能性も考えられます。また、彼らは事務所や世代の垣根を越えたコントユニット「コント村」に参加するなど、コントというお笑いジャンル自体を盛り上げる活動にも積極的です。他のコント師たちと切磋琢磨しながら新たな笑いを創造する姿勢は、今後も変わらないでしょう。ハナコ自身、「コントで日本中を笑顔にしたい」という思いを常々語っており、その言葉通りさらなる面白いコントを生み出してくれるはずです。テレビでは既に冠番組こそありませんが、今後実力と人気が伴えばハナコ冠のコント番組が制作される日も近いかもしれません。お笑い第7世代の代表格として、そしてキングオブコント王者としての誇りを胸に、ハナコはこれからも進化し続けることでしょう。その独創的な笑いの世界が今後どんな広がりを見せるのか、ファンとして目が離せません。各メンバーの個性とチームの結束力を武器に、ハナコはお笑い界に新風を吹かせ続けるに違いありません。
参考サイト
霜降り明星・ハナコ… 「お笑い第7世代」大人気の理由 - 日本経済新聞
ハナコ菊田、“ワーキャー人気のなさ”を痛感した出来事「肩をポンって叩かれた」 | マイナビニュース