バッテリィズ特集コラム – 野球愛が生んだ正統派漫才コンビの魅力
2017年に結成され、M-1グランプリ2024で準優勝に輝いた注目の漫才コンビ「バッテリィズ」。野球への情熱がきっかけで結成された異色の経歴と、正統派ながら独特な笑いのスタイルで人気を博す彼らの魅力に迫ります。
プロフィールと結成の経緯
バッテリィズは、エース(1994年11月2日生まれ、大阪府大阪市出身)と寺家(じけ)剛(1990年8月7日生まれ、三重県津市出身)の2人からなる吉本興業所属のお笑いコンビです。NSC大阪校36期生で、結成日は2017年10月15日。同36期の同期にはカベポスターやダブルヒガシ、丸亀じゃんごなどがいます。
もともと二人は別々のコンビで活動していましたが、2017年春にそれぞれ解散。同年、吉本の芸人で構成される草野球チーム「上方ホンキッキーズ」でバッテリー(投手と捕手)を組んでいたことが縁で、試合中のブルペンで会話したのをきっかけにコンビ結成に至りました。
コンビ名「バッテリィズ」は文字通り野球のバッテリー(投手-捕手コンビ)に由来しており、エースがピッチャー、寺家がキャッチャーというポジションから名付けられています。実際、二人は芸人仲間で立ち上げた草野球チームを自ら運営するほどの野球好きで、エースは背番号11番・ピッチャー、寺家は背番号27番・キャッチャーを務めています。エースは漫才で見せる「おバカキャラ」とは裏腹に7種類の変化球を投げ分ける本格派投手で打者としてはスイッチヒッターという腕前を持ち、寺家も野球経験が長くコンビ結成後も草野球でバッテリーを組み続けています。こうした異色の経歴と強固なコンビネーションが、彼らの芸にも活かされていると言えるでしょう。
独特な芸風とネタの特徴
バッテリィズの芸風は一見オーソドックスな漫才スタイルですが、その中に彼らならではの個性が光ります。主に漫才を持ちネタとし、寺家が様々な物事や場所の良さを無知なエースに対して丁寧に説明していく一方で、エースはその説明に納得できず次々とツッコミを入れる展開が定番です。寺家の言っていること自体は基本的に間違っておらず常識的なのに、エースの方が理解できずに食い下がるため、結果的に本来ツッコミ役であるエースがボケのように振る舞う逆転現象が起きるのが大きな特徴です。
このように「愛すべきアホ(=エース)とその操縦士(=寺家)」とも評される独特の掛け合いが持ち味で、エースの少年のように無邪気で天然なボケと寺家の落ち着いた的確なツッコミが絶妙なバランスで笑いを生み出しています。ネタ作りは主に寺家が担当しており、日常生活の何気ない出来事や身近なテーマをユーモラスに切り取ったシチュエーションコメディを得意としています。例えば「学校生活」や「家族のエピソード」など共感しやすい題材を扱い、エースの独特な視点と寺家の冷静なフォローによるテンポの良い掛け合いで観客を笑わせます。さらに二人は野球好きということもあり、ときおり野球やスポーツにまつわるネタを織り交ぜることもあり、そんなところにもコンビならではのカラーが表れています。
ネタの冒頭の「つかみ」では、エースが「○○がしたい」「△△に行くから色々教えてほしい」といった自分のやりたいことや目標を語り出し、それに対して寺家が「確かにな…」と前置きしてからエースの仰天エピソードを暴露しイジる、というお約束の展開があります。たとえば「エースが軽自動車の“軽”をアルファベットのKだと思い込んでいた」「名前を書いたら受かると言われるほどの高校入試で、エースが肝心の名前を書くのを忘れて不合格になった」など、思わず笑ってしまうようなエースの失敗談が語られます。このつかみのエピソードには実話を用いることにこだわっており、エース本人のやらかしエピソードをネタに昇華している点もユニークです。観客は「本当にあった話なんだ!」と驚きつつも親近感を覚え、リアリティのある笑いに引き込まれていきます。
全体として、バッテリィズの漫才は王道のしゃべくり漫才の中に個性的な設定と実体験に基づくエピソードを織り交ぜたスタイルと言えます。そのストレートで熱量のある掛け合いぶりから、M-1グランプリ2024の決勝戦では公式キャッチフフレーズとして「浪花のド直球」という異名が付けられました。まさに剛速球のごとく真正面から笑いを投げ込んでくるような漫才で、観る者の心に強いインパクトを残します。
他の芸人にない個性と魅力
数ある若手芸人の中でも、バッテリィズには他にはない個性が際立っています。最大の特徴はやはり野球をルーツとしたコンビ結成エピソードでしょう。コンビ名自体に野球用語を冠し、自ら草野球チームを運営するなど、お笑い界でも異例の“野球ガチ勢”コンビです。実際に二人は芸人仲間の草野球リーグで全国大会出場を目指すほど本気で活動しており、全国ランキング1位の草野球チームと対戦して4-4で引き分けた経験もあるほどだといいます。ここまで野球に熱心な芸人は珍しく、舞台上でも野球ネタが飛び出すと同時に舞台裏ではユニフォーム姿で汗を流すというギャップが、ファンや業界関係者の興味を引いています。
また、漫才における役割の逆転現象も他に例を見ないユニークさです。通常の漫才ではボケが非常識な発言をし、ツッコミがそれに的確な指摘を入れるのが定石ですが、バッテリィズでは常識人の寺家に対しエースが理解力の無さを露呈してツッコむため、図らずもエースが“ボケのような”役回りになってしまいます。この手法により、笑いのパターンに新鮮さが生まれ、観客は「次はエースがどんな勘違い発言で笑わせてくれるのか?」とワクワクしながら観ることになります。実際、M-1グランプリ2024決勝の審査員を務めたオードリー・若林正恭はバッテリィズの漫才を評し、「ワクワクするバカが現れた」とエースのキャラクター性を絶賛するとともに、「寺家の漫才のリズムをキープする腕も確か」とツッコミ役(寺家)の確かな技量を高く評価しました。このコメントが示す通り、愛すべきおバカキャラと堅実な実力派という両面を併せ持つコンビこそバッテリィズの唯一無二の個性と言えるでしょう。
さらに、ネタに実話エピソードを取り入れる手法も彼らならではです。他の芸人の漫才ではフィクションや誇張が多用される中、バッテリィズは自分たちの体験した失敗談や身近な出来事を素材に笑いを作ります。例えば前述のエースの失敗談しかり、リアルなドジ話を恥ずかしげもなくさらけ出すことで、観客との距離をグッと縮めているのです。等身大の自分たちをネタにして笑いに変えるスタイルは、飾らない人柄を感じさせ、ファンにとっても身近に感じられるポイントになっています。
人気の理由とファンからの支持ポイント
バッテリィズがここまで人気を博している理由には、上述した個性以外にも様々な要因があります。まず挙げられるのは、親しみやすいキャラクターです。エースの憎めない天然ぶりと寺家の温かみのある落ち着いた雰囲気は老若男女から好感を持たれやすく、「大阪の兄ちゃん達がそのまま舞台に上がったような親近感」があるとも言われます。実際、彼らの魅力は親しみやすい人柄と緻密なネタ作りにあると指摘されており、身近な日常をユーモラスに描く漫才と草野球を通じた地域交流活動がその人気を支えていると分析されています。観客が共感しやすい日常ネタを扱うことで笑いと共に「わかるわかる!」という共感を呼び、さらに漫才以外でも草野球イベントなどを通じてファンと交流し距離を縮めている点も、支持につながっているのです。
また、確かな話芸と演技力もファンを惹きつける重要なポイントです。漫才中の二人は台本で作り込んだ笑いを披露するだけでなく、その場の空気に合わせたアドリブや表情芝居でも楽しませてくれます。エースのコミカルな身振り手振りや驚いた時の大げさなリアクション、寺家の呆れつつも愛情を感じさせる眼差しなど、細かな演技も魅力となっています。こうしたスキルの高さは、彼らが毎年ネタを改良し続け地道に実力を磨いてきた努力の賜物でもあります。初出場の2018年M-1では3回戦敗退でしたが、その後も試行錯誤を重ね着実に成長し、2022年に準々決勝、2023年に準決勝、そして2024年についに決勝進出というステップアップを遂げています。この努力の軌跡をファンも追いかけており、「毎年うまくなっている」「頑張っている姿を応援したくなる」といった声が多いのも特徴です。いわば成長物語を共有できるコンビであることが、ファンの熱い支持を集める理由の一つなのです。
さらに、漫才の中で笑いとほのかな感動を両立させるストーリー性も彼らのネタの魅力です。2024年のM-1準決勝では、日常をテーマにしつつ笑いの中に少し心温まる要素も盛り込んだネタを披露し、審査員と観客の心を掴んだとも報じられています。爆笑だけでなく時にホロリとさせる展開もできる懐の深さがあり、そうした笑いの奥行きが見る者を飽きさせない要因となっています。
このように、多彩な魅力と努力によって培われた実力が相まって、バッテリィズは幅広い層から支持される存在となりました。M-1準優勝直後には『2025年ネクストブレイクランキング』のお笑い芸人部門で堂々の1位に選ばれており、業界内外から「今年ブレイク間違いなし」の声が上がっています。
これまでの主な活躍と出演歴
バッテリィズの快進撃は各種コンテストやメディア露出にも表れています。結成初年度から毎年M-1グランプリに挑戦し続け、2018年は3回戦進出、2019年は2回戦敗退、2020年は大会中止(オンライン動画審査のみ)、2021年は3回戦進出、2022年に準々決勝進出、2023年に準決勝進出、そして2024年には悲願の決勝初進出を果たしました。初の決勝の舞台では1stラウンド(ファーストステージ)で合計861点を獲得してトップ通過し、最終決戦では惜しくも令和ロマンに2票差で敗れて準優勝となったものの、大会を通じて強烈な印象を残しました。
M-1以外では、読売テレビの新人賞レース「ytv漫才新人賞」でも頭角を現し、第13回大会(2024年)で決勝に進出して3位入賞を果たしています。また、上方漫才協会大賞では2020年に文芸部門賞(優れたネタを書いた芸人に贈られる賞)を受賞し、2025年の第10回同賞では話題賞を受賞するなど、若手漫才師として確かな評価を得ています。
劇場でのライブ出演も精力的で、大阪のよしもと漫才劇場を拠点にレギュラー出演を重ねてきました。M-1準優勝後はテレビやラジオへの出演機会も増えており、2025年2月にはフジテレビの対談番組『ボクらの時代』にエースが単独で出演し、自身の生い立ちやコンビのエピソードについて語る場面もありました。さらに2024年には同期の漫才コンビ「エバース」と合同で月1回のツーマンライブ(対バンライブ)を開始し、ライブシーンでも切磋琢磨しています。メディア面では、吉本興業が運営するポッドキャスト番組プラットフォーム「Artistspoken(アーティストスポークン)」にて『バッテリィズのインズバ!』という初の冠番組がスタートし(2024年配信開始)、トークやコントなど新たな一面を発信しています。公式のYouTubeチャンネルこそありませんが、よしもと漫才劇場のYouTubeや配信番組でネタ動画が公開されており、ネットを通じて全国のファンが彼らの漫才を楽しめるようになっています。地元関西の劇場から全国区のメディアへと、着実に活動の場を広げている最中です。
業界関係者からの評価
バッテリィズの実力と魅力はファンだけでなく業界内からも高く評価されています。前述のM-1グランプリ2024決勝戦におけるオードリー若林の賞賛コメントはその代表例で、「ワクワクするバカ(=エース)が現れた」「寺家の漫才のリズムをキープする腕も確か」と、キャラクターと技術の両面で太鼓判を押されました。この他にも大会審査員からは概ね高得点を獲得しており(9人中8人が95点以上を付けた)、ダウンタウン・松本人志ら錚々たる顔ぶれからも軒並み高評価でした。結果的に僅差で優勝を逃したとはいえ、「今年のM-1はバッテリィズが一番面白かった」「敗れたけれど実質的な主役」といった声もネット上で多く見られ、漫才ファンからの支持の強さを示しています。
また、芸歴を重ねる中で受賞した賞も評価の高さを物語ります。上方漫才協会大賞での文芸部門賞受賞(2020年)は、彼らのネタ作りのセンスと完成度が認められた証と言えますし、話題賞受賞(2025年)はまさにバッテリィズが最近特に注目を集め、話題性が高い存在であることの裏付けでしょう。また、先輩芸人からの刺激や助言も成長の糧としています。実はエースという芸名は先輩であるニッポンの社長・辻皓平が命名したもので、エース本人が考えていた「たこ焼き」という芸名案を却下した上で代わりに提案した「エース」に由来しています。こうした先輩から可愛がられるエピソードからも、彼らの人柄やセンスが業界内で評価されていることがうかがえます。
さらに、『日刊スポーツ』のインタビューでは「笑いも野球も真剣に取り組む異色コンビ」として取り上げられ、「お笑い第7世代以降の新たなホープ」と期待する声も紹介されています。2025年には前述の“ネクストブレイク芸人”ランキングで1位に選出されるなど、テレビ局や広告業界からも次代を担う存在として注目度が急上昇しています。
今後の展望と期待
2025年春、バッテリィズは活動拠点を長年育ってきた大阪から東京へと移す予定です。漫才師にとって東京進出は全国区で活躍するための大きなステップであり、彼らもいよいよ満を持して首都圏の舞台に乗り込んでいきます。すでにテレビやラジオでの露出が増えつつある中、東京でも持ち前の“浪花のド直球”な笑いでさらに多くのファンを獲得してくれることでしょう。M-1準優勝という実績を引っ提げての進出だけに、バラエティ番組やお笑い特番への起用、さらにはコンビでの地上波レギュラー番組獲得など、大きな飛躍も期待されています。将来的には漫才だけでなくコントや映画・ドラマ出演など活躍の場を広げていく可能性もありますし、何よりリベンジを期すM-1グランプリでの悲願の優勝にも期待が高まります。
ファンからは「東京に行っても変わらず応援する」「もっと全国放送でバッテリィズの漫才が見たい」といったエールが送られており、本人たちも「大阪で培ったものを武器に全国で勝負したい」と意気込んでいるようです。実直で熱い笑いを信条とするバッテリィズなら、東京という新天地でもきっとその持ち味を発揮し、唯一無二のポジションを築いてくれるでしょう。漫才に対するひたむきな情熱と野球で培った粘り強さを武器に、これからも新たな笑いの形を追求しながら全国の観客を魅了し続けてくれるに違いありません。今後さらなる飛躍を遂げ、日本のお笑い界を背負って立つ存在になるであろうバッテリィズから目が離せません。これからの活躍に大いに期待しましょう!