Aマッソ特集:独自の笑いでお笑い界に新風を吹き込む幼なじみ女性コンビ
結成の経緯とメンバー紹介
Aマッソは、加納愛子(かのう あいこ)とむらきゃみ(本名:村上愛〈むらかみ あい〉)による女性お笑いコンビです。2人は大阪出身の幼なじみで、小学校時代からの友人同士。2010年にコンビを結成し、本格的にお笑い活動を開始しました。コンビ名「Aマッソ」は、2人の名前に共通する「愛(ラブ=Love)のイニシャルA」と、子供の頃に熱中した漫画『キン肉マン』のキャラクター「マッスル」に由来しています。結成当初は松竹芸能のタレントスクールに在籍し松竹芸能に所属していましたが、先輩芸人との折り合いが悪く“協調性がない”という理由で2013年に事務所を解雇されるという異色の経歴も持ちます。その後しばらくフリーで活動した後、現在は大手芸能事務所のワタナベエンターテインメントに所属しています。
メンバーのプロフィールもユニークです。ボケ・ツッコミの役割は明確に固定されておらず、ネタによって柔軟に入れ替わるのが特徴ですが、一般的にはむらきゃみ(村上)がボケ役を務め、加納がツッコミ兼ネタ作り担当です。むらきゃみは1988年生まれで大阪府大阪市出身、学生時代はバスケットボールに打ち込んだスポーツウーマンでもあります。2024年2月、芸名を本名の「村上」から現在の「むらきゃみ」に改名し、「笑いの温度調整のために名前にキャミソールを着せてみました」とユーモアたっぷりに理由を語りました。一方、加納愛子は1989年生まれで大阪市育ち。幼い頃はいじめられっ子だった時期もありますが、本好きで知的好奇心旺盛な少女だったといいます。同志社大学商学部に推薦入学したものの1年で中退した経歴を持ち(映画制作サークルに所属していましたが、学費の問題で退学したとか)、その後は芸人の道に専念しました。加納はコンビの「頭脳」とも称され、ネタ作りだけでなくエッセイ執筆や小説執筆など文筆家としての顔も持っています。実は2人とも既婚者で、2021年10月にスタートした自身たちのラジオ番組で“実は結婚していました”と同時に発表して大きな話題を呼びました。プライベートを感じさせない息の合った漫才ぶりからは想像しにくいですが、家庭を持ちながらコンビ活動を続けている点でも注目されています。
活動経歴:テレビ・ライブ・ラジオ・YouTubeでの活躍
結成以来、Aマッソはライブシーンやお笑いコンテストで着実に頭角を現してきました。2015年、NHK BSプレミアムの若手芸人発掘番組『爆笑ファクトリーハウス 笑けずり』に出演し、決勝戦まで勝ち残って準優勝を獲得。この頃から独特のセンスが注目され始めます。また、漫才とコント両方の大会に積極的に挑戦しており、M-1グランプリでは2016年・2017年大会で準決勝進出、キングオブコントでも2017年に準決勝進出を経験しています。男女混合の大会であるM-1やKOCで健闘する一方、女性芸人限定の賞レース「女芸人No.1決定戦 THE W」では2020年から3年連続で決勝に進出する快挙を達成。中でも2021年大会では惜しくも準優勝(第2位)に終わりましたが、僅差で敗れる接戦を演じており、実力派コンビとしてお茶の間に強い印象を残しました。
テレビ番組への出演も多岐にわたります。過去にはテレビ朝日のバラエティ番組『バクモン学園』(2017〜2018年)にレギュラー出演し、地上波で個性的な存在感を発揮しました。さらに近年では加納がピンでテレビ東京のクイズ番組『正解の無いクイズ』に出演したり、2024年4月からはコンビ名を冠した初の地上波レギュラー番組『A LABBO』(テレビ朝日)がスタートするなど、テレビで目にする機会も着実に増えています。特に『A LABBO』は深夜帯とはいえ、「Aマッソ」の名前が付いた番組ということでファンの期待も大きく、彼女たちの実験的なお笑い企画が見られると話題です。
ラジオでも活躍が光ります。2021年10月からMBSラジオの看板番組『MBSヤングタウン』の木曜パーソナリティに大抜擢され、「Aマッソのヤングタウン」という冠でレギュラー放送が始まりました。この番組ではフリートークや企画コーナーで2人の掛け合いが存分に楽しめると評判です。初回放送の収録中に、前述のとおり2人同時の結婚発表をぶっ込むというインパクト大のエピソードも生まれました。以降もリスナーとの距離が近い深夜ラジオならではのトークで人気を博し、芸人としてのトークスキルとサービス精神を示しています。ラジオ以外にも、ネット配信のトーク番組や他番組のゲスト出演など音声メディアでの活動も積極的です。
また、YouTubeでの発信にも力を入れています。公式YouTubeチャンネルではオリジナルのコントや企画動画を多数公開しており、その内容はテレビではできないような実験的かつシュールな笑いが満載です。たとえばショートコントでは、ばんばひろふみの名曲『いちご白書をもう一度』を歌う人物がインターホンを押されて何度も振り返るだけの謎のシチュエーションを描いたものや、ジグソーパズルの上に炒飯を投げ入れるという意味不明なボケ、さらにはNetflixを風刺する風変わりなコントなど、“普通じゃない”笑いでコアなファンを唸らせています。2019年以降はシリーズ企画も展開しており、「面接官加納」シリーズでは加納がクセの強い人物になりきった村上を面接するコントを繰り広げ、また別企画ではアンガールズ田中卓志やザブングル加藤、流れ星ちゅうえい、ふかわりょう、平成ノブシコブシ吉村崇といった豪華な先輩芸人たちをゲストに招き「売れるための秘訣」を聞き出すトーク企画も配信しています。こうしたYouTubeでの自由な挑戦が評判を呼び、チャンネル登録者数は2021年に早くも10万人を突破(銀の再生ボタンを獲得)。総再生回数も数千万回を超えるなど順調にファン層を拡大しています。ネット発の企画から新ネタが生まれたり、テレビとは異なる一面を見せたりと、プラットフォームごとに異なる魅力を発信しているのもAマッソの強みでしょう。
ネタの特徴と芸風の解説
Aマッソの笑いは一言で言えば“型破り”です。漫才もコントも演じ分ける器用さを持ち、しかも2人の役割分担すら固定観念にとらわれません。ネタによっては両方がボケに回ったり、逆に両方がツッコミのような掛け合いをすることもあり、従来のお笑いコンビのフォーマットに収まらない自由さがあります。実際、過去にはテレビ番組『冗談手帖』(BSフジ)にてリズムネタ(音楽に合わせたネタ)に挑戦したり、単独ライブでプロジェクションマッピングを用いた映像融合漫才に挑戦したこともあるほどで、常に新しいスタイルを模索するチャレンジャーなコンビと言えます。
彼女たちのネタ作りのアプローチも独特です。ネタの題材は身近な日常の中に転がっているものが多く、例えば「思い出話」「海水浴」「射的(縁日の的当て)」「テレビゲーム」といった、一見ありふれたテーマを取り上げます。しかしそこに乗せる会話や展開は一筋縄ではいきません。言葉選びにセンスが光り、加納が「どこかで聞いたことがあるようでいて奇妙」なワードを意図的に織り交ぜて脚本を作るため、観客は予測不能な展開に引き込まれ、じわじわと笑いがこみ上げてくるのです。2人の大阪弁による畳みかけるようなしゃべくり漫才の掛け合いはテンポ抜群でキレがありますが、一方で典型的な女性芸人がやりがちな「女性あるあるネタ」やコスプレ的なキャラ漫才(OLや女子高生になりきる等)は一切と言っていいほど行いません。加納曰く「世の女性の平均像みたいなものを私たちはよく知らないし、もともと好きなお笑いのタイプがそういうのじゃなかったから」とのことで、安易に“女子ウケ”を狙わず自分たちの笑いを貫いているのです。このようにジェンダーにとらわれない笑いの姿勢が、彼女たちの芸風を唯一無二のものにしています。結果として「女性芸人」の枠を超えて幅広い層から支持を集めており、実際に男性コンビ顔負けの賞レース実績や評価を勝ち取っている点にもそれが表れています。
ネタの量と引き出しの多さも驚異的です。Aマッソは結成から年数が浅い頃から精力的にライブを行い、新ネタをどんどん生み出してきましたが、2016年時点で既に手持ちのネタが約200本に及ぶと語っていました。漫才・コント問わずこれだけのネタを作り蓄えているコンビは稀で、ネタ作り担当の加納の才能と努力、それを形にする村上(むらきゃみ)の演技力・対応力には定評があります。
人気のネタと代表的なエピソード
そんなAマッソのネタの中でも、「尖っている」と話題になることが多いものをいくつか紹介します。代表的なのはコント『進路相談』です。このネタは高校の進路相談室が舞台で、ラーメン屋になりたいという夢を語る生徒(村上)に対し、担任教師(加納)が「女が作ったラーメンは食べられへん」(女性が作るラーメンなんて食べられない)と偏見丸出しの暴言を連発、挙句の果てに「Aマッソって知ってるか?ああいう女芸人が一番嫌いや」と劇中で自虐的に自分たちをも否定する…という過激な内容です。観客はハラハラしつつも、そのあまりの振り切りっぷりに笑わされるというシュールな作品で、まさにAマッソらしい「ギリギリを攻める」笑いとして語り草になりました。実際このネタは賛否両論を呼びつつ、彼女たちの作家性を象徴する一本として熱烈な支持を集めています。
その他の人気ネタには、漫才『ドラマ』や『いとこの相談』、コント『里親』や『きっかけ』などがあります。漫才『ドラマ』では「一社提供ドラマ」にまつわる独特の世界観で笑わせ、漫才『いとこの相談』では村上演じる「首都高になりたい」という奇想天外な夢を語るいとこに加納が鋭くツッコむという不条理設定で笑いを生みます。コント『里親』では生意気な態度の子ども(加納)を里親に出そうとする話でブラックユーモアを交え、コント『きっかけ』では何気ない一言から村上の人生がメチャクチャになる様子をコミカルに描いています。いずれのネタも一筋縄ではいかない発想から成り立っており、「オチが読めない」「発想が斜め上すぎる」とお笑いファンの間で高く評価されています。
エピソードとして特筆すべきなのは、その尖った笑いゆえに物議を醸した出来事がある点でしょう。2019年9月のライブで、当時世界的スターとなっていたプロテニス選手・大坂なおみ選手に絡め「大坂なおみに必要なものは?」「漂白剤。日焼けしすぎやろ!」というやり取りをネタ中に入れてしまい、「人種差別的だ」と炎上した事件です。この発言は海外メディアでも報じられる騒ぎとなり、加納と村上はそれぞれ直筆の謝罪文を公表して「笑いと履き違えた最低な発言だった」と深く反省の意を示しました。所属事務所のワタナベエンターテインメントも大坂選手側に直接謝罪する事態となり、彼女たちの過激な作風にもリスクが伴うことを世間に知らしめる結果となりました。ただ、本人たちは決して差別そのものを笑いにする意図はなく知識不足で踏み込んではいけない領域に触れてしまったのだ、と釈明しています。この一件以降、以前にも増してネタに慎重さと熟慮を重ねるようになったとも言われています(実際、その後はコンプライアンスに配慮しつつも持ち味を損なわない範囲でユーモアを追求しているようです)。結果的にこの騒動も彼女たちの名前を広める一因にはなりましたが、同時に「攻める笑い」と「笑いとしてアウトな領域」の線引きを考えさせる教訓的エピソードとなりました。
他の芸人との関係性・コラボレーション
Aマッソの2人は、その個性的な芸風ゆえに“一匹狼”的に語られることもありますが、実は他の芸人との交流やコラボレーションも盛んです。芸歴的には2010年結成で、吉本興業勢とは異なる事務所出身ということもあり同期や直接の先輩後輩関係は少し特殊ですが、それでも関西出身者同士の繋がりは強いようです。大阪時代の若手ライブからの仲間には、現在テレビで活躍中のピン芸人ヒコロヒー(松竹芸能出身)や、トンツカタンのお抹茶、ロビンソンズの北澤仁などがいて、今でも親交があります。また、吉本の女性漫才コンビ尼神インターの渚とは「女ツッコミ芸人No.1決定戦 THE T」という企画で共演した縁から意気投合し、2018年には渚と加納の二人でトークライブ「本能、類は友をしばく」を開催するなど交流を深めました。加納は渚のYouTubeチャンネルに放送作家(ネタ書き手)として参加するなど裏方としてもサポートしているそうです。こうした他の女性芸人との横の繋がりも、互いに刺激を与え合う良き関係となっているようです。
先輩芸人との絡みも見逃せません。前述の通り、YouTube企画でアンガールズ田中やふかわりょうら実力派先輩を招いてトークを繰り広げるなど、年上芸人との共演機会も積極的に作っています。バラエティ番組でもダウンタウン浜田雅功MCの『ごぶごぶ』に出演した際には遠慮ない返しで浜田にツッコミを入れるなど、大物相手でも物怖じしない度胸を見せました(浜田から「お前らおもろいやん」と太鼓判を押されたというエピソードもファンの間で語られています※)。さらに、コント師のラブレターズやシュールな笑いで人気の真空ジェシカとライブで共演したり、事務所の垣根を超えたユニットライブにも積極的に参加しています。独自路線を突き進むAマッソですが、同世代・異業種の芸人たちとの切磋琢磨や化学反応が、新たな笑いを生み出す原動力にもなっているのです。コラボを通じて新境地を開拓する柔軟さも、彼女たちの魅力と言えるでしょう。
最近の活動トピックス
ここ数年のAマッソは、お笑い以外の分野でも話題を提供しています。まず注目なのが加納愛子の文才開花です。2018年からウェブ連載エッセイ「何言うてんねん」(webちくま)を執筆し始めた加納は、その独特の語り口が評価され、2020年には初のエッセイ集『イルカも泳ぐわい。』を出版。さらに2022年には初の小説集『これはちゃうか』も上梓し、お笑い芸人としてだけでなく小説家・エッセイストとして文壇からも注目を集める存在となりました。2023年にはNHK総合の異色ドラマ『お笑いインスパイアドラマ「ラフな生活のススメ」』で脚本を担当する4人の芸人の一人に抜擢され、連ドラ脚本家デビューも果たしています。翌2024年には中京テレビの深夜連ドラ『スナック女子にハイボールを』でオリジナル脚本を単独執筆し、映像作品の世界でも才能を発揮しました。加納本人は「作家業も楽しいけれど、**『直木賞よりM-1優勝』**が取りたい」と語っており、お笑い芸人としての矜持を忘れずに執筆活動と両立している点もファンの心を掴んでいます。
一方、むらきゃみ(村上)の最近のトピックと言えば前述の芸名変更と、コンビとしての快挙達成でしょう。2024年2月の芸名改名はファンを驚かせつつ笑わせましたが、その直後の2024年4月、Aマッソは事務所ライブの大会「ワタナベお笑いNo.1決定戦」で念願の優勝を勝ち取りました。実はこの大会、2019年に準優勝、2020年に3位と惜しい結果が続いていた中での栄冠であり、満を持して事務所内No.1の座を射止めた形です。優勝により事務所からのプッシュも一層強まり、前述のテレビ朝日『A LABBO』レギュラー開始など好循環を生んでいます。
また、2024年には意外なところでニュースになった出来事も。それはYouTubeに投稿したゲーム実況動画で、非公式の海賊版ゲームをプレイしてしまったとして謝罪した一件です。話題のカジュアルゲーム「スイカゲーム」を遊ぶ動画を配信したところ、実は正規版ではなく無断コピーゲームだったことが判明し、動画を非公開にしたうえで「申し訳ございません」とコメントを発表しました。幸い大事には至りませんでしたが、ネット上で「対応が迅速で誠実」と逆に評価される場面もありました。このように細かなトラブルもありつつ、常に真摯に向き合って軌道修正していく姿勢からも、コンビのプロ意識がうかがえます。
Aマッソの魅力と今後の展望
数あるお笑いコンビの中でも、Aマッソがここまで熱心なファンを惹きつける理由は、その唯一無二の世界観と振り幅の広さにあります。他では見られない切り口のネタ、予測不能なボケとキレのあるツッコミ、そして時に文学的とも言える言葉選びとストーリーテリング。加納愛子の創り出す独特の笑いの世界は「加納ワールド」などとも称され、過激でチャーミング、不思議な人間味にあふれていると評されます。一方で、その世界観を相方として隣で具現化するむらきゃみの演技力・表現力も卓越しており、2人が揃って初めて完成する化学反応があります。幼なじみならではの阿吽の呼吸と信頼関係があるからこそ、これだけ大胆な笑いに挑戦し続けてもブレないのでしょう。
また、Aマッソは常に進化し続けています。結成から十数年、舞台・テレビ・ラジオ・ネットと活躍の場を広げ、その都度新しいチャレンジをしてきました。漫才にコントにリズムネタ、映像ネタ、文学まで――活動のフィールドが広がっても「自分たちらしさ」を失わず順応する器用さがあります。「決まった形はない」というスタンスで、お笑いの可能性を追求する姿勢は観ていて痛快ですし、その旺盛なチャレンジ精神がこれからどんな作品を生み出すのか期待せずにはいられません。
今後の展望としては、まずは悲願の賞レース制覇が挙げられるでしょう。本人たちも狙っているであろうM-1グランプリやTHE Wでの優勝は、お笑いファンなら誰もが見てみたい瞬間です。また、地上波レギュラー番組『A LABBO』の成功次第では、さらに大型番組への出演や冠番組の増加も考えられます。加納の脚本家・作家活動も順調で、将来的には自ら企画・脚本を手がけるドラマや映画で主演(もしくは自分たちが主要キャスト)を務める、といったマルチな展開も夢ではありません。むらきゃみもエッセイ連載を持つなど表現者としての幅を広げており、コンビ揃ってお笑い以外のフィールドでも才能を発揮しています。
何より、Aマッソの魅力は「常に観客の予想を裏切り、期待に応える」点にあります。王道の笑いから一歩はみ出しつつも、しっかり笑わせてくれる確かな技術とセンス。それでいて本人たちは飾らず飄々としており、関西人らしいサービス精神と親しみやすさも兼ね備えているため、一般のお笑いファンにとっても実は身近に感じられる存在です。尖ったネタでコアなファンを虜にしつつ、バラエティ番組では体当たりロケや大喜利企画で笑いを取る柔軟さも持つAマッソ。まさに「女性芸人の枠を超えて広く支持を集める」実力派コンビとして、お笑いシーンに新風を吹き込み続けています。これから先、彼女たちがどんな笑いで我々を驚かせてくれるのか――その動向から目が離せません。